ちばえこ日和

日本初の博士(公共学)という学位を持つ大学発ベンチャー「千葉エコ・エネルギー株式会社」の代表が、自然エネルギーのことから地域活性化まで様々な話題をお届けします。

再エネ業界ニュース:カネカが結晶シリコン太陽電池モジュールで世界最高変換効率を達成 - ヘテロ接合バックコンタクト型で24.37%

NEDOが10月27日付で、株式会社カネカが結晶シリコン太陽電池モジュールで世界最高の変換効率となる24.37%を達成したと発表しました。

www.nedo.go.jp

セル単位の大幅な変換効率向上

この研究は、NEDO「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」プロジェクトとして実施されていたもので、セル単位の変換効率は26.33%を実現しているとのことです。

現在の市販モジュールの変換効率が15~18%程度であることから、今回の24.37%というのは大幅な性能向上です。

かつて、三洋電機が開発したHIT(ヘテロ接合型)太陽電池モジュールは19%(セル単位では21%以上)を超える変換効率を誇りましたが、それを上回る製品の実用化に目処がついたと考えられます。

今回の技術開発により、NEDO太陽光発電開発戦略(NEDO PV Challenges)の目標である2020年に発電コスト14円/kWhを達成するために必要とされる変換効率22%を上回ったことで、その目標達成に向けた大きな前進を果たしたと言えるでしょう。

太陽光発電事業:太陽光発電競争力強化研究会のレポート② - わが国の太陽光発電のコスト構造

前回に引き続き、太陽光発電競争力強化研究会のレポートから、わが国の太陽光発電の抱える課題についてまとめていきます。

前回の記事は下記からどうぞ。

cee.hatenablog.jp

 

コスト構造の課題

固定価格買取制度(FIT)による導入促進の目的というのは、高コストであるからこそ他の電源よりも買取価格を優遇することで設備設置を促し、普及を図ることでコストを引き下げていくことにあります。

2016年段階では、わが国の太陽光発電は導入費用も運転管理費も概ねドイツ・フランス・英国の2倍程度の水準となっています。

これを如何にして引き下げていくのかについての議論では、まず現状は下記の表のように「あらゆるコストが全部高い」という状態です。

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(出所)経済産業省 太陽光発電競争力強化研究会レポート

この表では、国ごとの特殊事情が絡む土地造成や系統接続費用を除いているので、発電所の本体工事に関する費用部分の比較となっています。

レポートの中では、

  • モジュールの内外価格差は縮小傾向
  • PCSは海外勢の参入圧力が弱い
  • EPC事業者経由の調達による追加マージンの発生
  • BOSや設置工事は設計・施工の効率化が進んでいない
  • 専門のEPCが少なく、建築業等をベースにした多層の下請構造
  • そもそも高いFIT価格による価格競争圧力が弱い
  • 耐震・耐風基準の高さ

などを高コストの理由として挙げています。

特に設計・施工部分の専門化が進んでいない事による無駄の多さは、BOS価格及び設置工事費の高止まり要因となっており、この構造が発電所の点検・保守(O&M)にも及ぶことで運転管理費も高い水準にあります。

この課題に対しては、買取価格の引き下げや入札制度の導入によって競争を促進するほか、NEDO太陽光発電開発戦略(PV Challenges)に基づく付加価値の向上と低コスト化を目指した技術開発支援を進めるとしており、発電コストを

  • 2020年に14円/kWh
  • 2030年に7円/kWh

まで、段階的に引き下げていくとしています。

また、国内メーカーの競争力をどう高めていくかも議論されていますが、国内に大量流入している中国メーカーとの競争の中で、コスト削減を目指すか付加価値の向上を図るかという視点は、他の工業製品と同様の課題です。

 

次は、長期安定発電の実現に向けた現状と課題をまとめていきます。

太陽光発電事業:太陽光発電競争力強化研究会のレポート① - わが国の太陽光発電の抱える課題

わが国の太陽光発電産業は、2000年代半ばには世界トップ水準の国内導入量及びモジュール出荷量を誇っていました。

現在は、FITの影響で年間導入量こそ中国に次ぐ第2位となり、累積導入量も国別では上位に返り咲こうとしていますが、主要な国内モジュールメーカーの出荷量は世界大手に大きく水をあけられています。

そんな状況下にあって、わが国の太陽光発電産業の競争力強化を図るにはどうしたらいいのか?を研究したレポートが、経済産業省から10月に公表されています。

www.meti.go.jp

 

 太陽光発電の競争力強化に向けた課題とは

このレポートの中で、わが国の太陽光発電の競争力強化に向けた課題として、下記の3

項目が挙げられています。

  1. コスト競争力の強化
  2. 長期安定発電事業への転換
  3. 太陽光発電の自立的な導入に向けた新しいマーケットの拡大

現在、わが国の太陽光発電の発電コストはドイツ・フランスの2倍、英国の1.5倍といった水準になっており、このコスト構造を変えていくことが喫緊の課題です。

長期安定発電事業への転換という点では、適切な点検・保守(O&M)の実施やアセットマネジメントの浸透、製品や施工の品質向上などが課題ですし、ポストFITを見据えた新しいマーケットでは蓄電池の併設やVPP、ZEHやZEBといった自家消費電源化などが考えられます。

まず当面は、FITの目的であるコスト構造の改善を図りつつ、改正FIT法でも盛り込まれつつあるO&Mの義務化による電源としての安定化を果たすことが重要でしょう。

 

記事をまとめて見たところ長文になってきたので、コスト構造の分析は②として掲載します。

固定価格買取制度:改正FIT法における事業用太陽光発電の入札制度 - 平成29年10月開始目処

10月24日に開催された第24回調達価格等算定委員会で、改正FIT法で予定されている事業用太陽光発電の入札制度に関する議論が行われました。また、同委員会には一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)から、調達価格等への意見が提出されています。

まずは入札制度のフローや実施時期、対象などについて、一通り整理していきます。

入札制度のフロー

入札制度のフローは下記のように示されてますが、現段階では対象となる発電設備の区分や入札資格は未定です。なお、当初の対象は出力2,000kW以上の特別高圧連系の設備とするように、JPEAから要望が出されています。

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(出所)経済産業省 調達価格等算定委員会(第24回)配付資料

入札の参加希望者は発電事業計画の審査を受け、資格が認められると供給可能な1kWhあたりの価格と発電出力を札入れします。最も安価な札を入れた事業者から、順次入札全体の募集要領に達するまでの事業者を落札者とし、その後にFITの設備認定を申請して認定を受けるという流れになります。

落札者は、電力会社との連系協議を行うなどして事業化の準備を進め、定められたFIT認定申請期限までに設備認定申請を行う必要があります。

入札の実施スケジュール

平成29年度からの入札実施は決定していますが、今後の実施スケジュールは下記のように案が示されました。第1回の入札は、平成29年9月~10月となっています。

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(出所)経済産業省 調達価格等算定委員会(第24回)配付資料

初年度は入札に関するシステムの構築及び試験運用が必要と言うことで1回のみの実施とし、平成30年度からは年2回というペースが想定されています。

第1回の入札実施後の調達価格等算定委員会で、実施結果を踏まえた見直しを行う可能性についても示唆されています。

入札対象規模、入札量、上限価格

入札対象規模や入札量、上限価格はこれから議論されるところですが、事業者の予見可能性に留意することとして平成30年度の第3回分までは今年度の調達価格等算定委員会で提示する案となっています。(来年度の見直し可能性は留保)

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(出所)経済産業省 調達価格等算定委員会(第24回)配付資料

上の資料では、太陽光発電設備のシステム費用に関する運転開始年別の推移が規模別にまとめられていますが、50kW~2,000kW未満の範囲では着実なシステム費用の低下が見られる一方で、2,000kW以上の設備については若干の横ばい~上昇傾向が見られます。

これは、大規模な発電設備ほど土木造成や系統連系コストが嵩むことが原因と推測され、その引き下げを促すために入札性を導入するという考え方が成り立ちます。

 

これから12月にかけて議論が進み、入札制度の全容が固まっていくことになりますが、ヨーロッパの事例では小規模から大規模な設備まで競争力のある大手企業が独占状態という事態も生じているので、中期的な制度設計の中で地域エネルギー事業に配慮した仕組み作りが求められます。

再エネ業界ニュース:東証のインフラファンド市場に第2号のファンドが上場 - いちごグループ

東京証券取引所が開設しているインフラファンド市場に、10月24日付で「いちごグリーンインフラ投資法人の上場が承認されました。

国内第2号となるメガソーラーの上場インフラファンド

タカラレーベン・インフラ投資法人に次ぐ第2号の上場となり、投資口数は5万180口(出資総額:50億1,800万円)になるということです。

techon.nikkeibp.co.jp

同ファンドはメガソーラーへの投資を対象としており、上場時点では13案件・25.8MWの太陽光発電所を投資資産として保有、ファンドへの資産譲渡総額は100.1億円と公表されています。

FIT価格は40円案件が9件を占めており、また全案件のうち7件が北海道の発電所であるほか、最も大きい発電所として沖縄県名護市に所在する8.44MWの設備が唯一の特高案件となっています。

今後も続くインフラファンドの上場

同様のメガソーラーを対象としたファンドは、他にネクストエナジー・アンド・リソース社が年明けの上場申請を準備していると報じられており、また既存の各ファンドも資産規模を増やしていくことが示唆されています。

一方で、メガソーラーはこれまで国内での長期運用実績がほとんどなく、FITがあるとは言えこれらのファンドがどれだけの運用成績を上げていけるのかは予想できません。

各投資会社などが個別にメガソーラーへの投資ファンドを組成している事例は複数ありますが、今後このようなインフラファンドの上場が増えてくるのかどうか、それが再生可能エネルギーの普及と社会への定着にどういった意味を持つのかは、引き続き考えていく必要があります。

固定価格買取制度:平成28年6月末時点の設備認定情報が公表 - FITスタートから丸4年

資源エネルギー庁が継続的に公開している固定価格買取制度(FIT)の設備認定量や導入量データについて、平成28年6月末時点の情報が公表されました。

固定価格買取制度のスタートから丸4年目の成果ということになります。

 

なっとく!再生可能エネルギー 各種データの公開

 

固定価格買取制度の導入から4年 その成果

固定価格買取制度の開始から4年で、新たに導入された再生可能エネルギー発電設備は合計3,047万kW認定設備容量は8,739万kWとなりました。

資源エネルギー庁電力調査統計では、平成28年6月末時点で国内に2億7,000万kWの発電設備があることから、現在の国内にある発電設備の11.28%固定価格買取制度で導入された再生可能エネルギー発電設備ということになります。

 

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(出所)資源エネルギー庁 なっとく!再生可能エネルギー

電源の比率としては引き続き太陽光発電が圧倒的多数であり、導入容量の95.57%が住宅用及び非住宅用の太陽光発電設備です。

一方で、風力発電バイオマス発電の認定容量も増え続けており、設備利用率の差から買取電力量ベースでは33%が太陽光発電以外の電源となっています。

 

再生可能エネルギーの今後

この4年間で再生可能エネルギーのマーケットは大きく様変わりしましたが、着実に再生可能エネルギーが国内で普及してきているのは事実です。

既に太陽光発電事業で顕在化していますが、急速に増加した発電設備を適切な維持管理によって長期に亘る社会インフラとして維持していくことも、今後重要となっていきます。

固定価格買取制度が5年目に突入し、太陽光発電以外の電源をどう増やしていくか、また地域に定着した再生可能エネルギーとは、新たなエネルギー事業を軸にしたまちづくりとは、といったテーマも議論されるようになってきました。

ソーラーシェアリングを始めとした、同じ自然の恵みを活かすものである農業と再生可能エネルギーの連携もあります。

今後は、社会への再生可能エネルギーの定着をより一層進めていくという、新たなフェーズへと入っていくことになるでしょう。

電力小売自由化:再生可能エネルギーの融通で広がる地方自治体の連携 - 福岡県みやま市と大分県豊後大野市

FITの導入以降、 地方自治体による再生可能エネルギー発電事業が拡大してきました。

その発電設備を利用した新電力の設立も少しずつ増えてきた中で、その先駆者である福岡県みやま市(みやまスマートエネルギー)が大分県豊後大野市再生可能エネルギーの普及などを目指した連携協定を結んだことが報じられています。

www.itmedia.co.jp

再生可能エネルギー利用では、様々な地域に賦存する自然資源からエネルギーを生産していくことになりますが、市町村という人工的な線引きの中では資源量や種類に偏りが出てきます。

それを、地域間連携によって相互補完できるようになれば、単独の自治体だけでは取り組めない、あるいは取り組む動機付けが低い状況を打開することができます。

今後、再生可能エネルギー事業に意欲的な自治体を中心に、さらに近隣の自治体を巻き込むような形で同様の連携が広まっていくべきと考えます。

電力自由化:経済産業省が廃炉費用の新電力負担に関する議論に着手

電力自由化が進む中で、経済産業省原子力発電所廃炉費用の負担を巡り、新電力への負担を含めた検討を始めました。

 

廃炉経産省が議論着手 新電力、反発 電力大手「相応の負担を」(毎日新聞)

http://mainichi.jp/articles/20160928/ddm/002/010/125000c

 

この議論は、新たに設置された「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」で議論されることとなっており、「廃炉会計制度の在り方」として第1回会合で検討事項として提示されています。

www.meti.go.jp

下記が、同小委員会の配付資料からの抜粋となります。

2015年3月の「電気料金審査専門小委員会廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ」で提示された案が出されており、ここでは廃炉費用の費用負担について「広く薄く全需要家が負担することが適切」という意見と、「制度を適用した事業者から電力の供給を受けない需要家に負担を求めるべきではない」という意見があったとしています。

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(出所)経済産業省 電力システム改革貫徹のための政策小委員会 第1回配付資料より

今回の小委員会では、前者の「広く薄く全需要家が負担する」ことを前提として、新電力が送電網を利用する際の託送料金に上乗せして徴収することが提案されています。

その中で、上記資料の最下段にも記載されていますが、原子力発電による電気を市場に拠出することがセットとなるため、既に各所で議論になっている「非化石価値取引市場」の設置が併せて検討事項④としてあげられています。

この小委員会での議論は年内にも中間取り纏めが行われることとなっていますが、電力自由化によって消費者の選択肢が増えていく中で、原子力をどのように扱っていくのかについての方向性が決まっていく重要な時期に差し掛かったと言えるでしょう。

ソーラーシェアリング:ドイツでソーラーシェアリングの実証試験開始 - Agrophotovoltaik

ドイツでソーラーシェアリングに類似した、太陽光発電設備の実証試験が始まったという記事を見つけました。記事中では"Agrophotovoltaik"と表記されています。

シュトゥットガルト(Stuttgart)にあるホーエンハイム大学(Universität Hohenheim)の研究者を中心とした取り組みで、設備の高さは何と7mになるそうです。

 

www.klimaretter.info

 

食料とエネルギーを同時に生産するという試みが、このように世界的に広まっていくのは非常に喜ばしいことだと思います。

日本のソーラーシェアリングとは異なる設計思想もあるように見受けられますが、今後の研究成果に期待です。

再エネ業界ニュース:2020年にかけての再生可能エネルギー市場規模の動向 - 富士経済が調査レポートを公表

わが国における再生可能エネルギー市場の2020年にかけての動向・推移について、(株)富士経済が「FIT・再生可能エネルギー発電関連システム・サービス市場/参入企業実態調査 2016」とするレポートを取りまとめ、そのサマリーが公開されています。

 

新サービスの開発や海外事例の取り入れなど「ポストFIT」市場への対応が進む再生可能エネルギー発電システムの国内市場を調査(富士経済)

 

市場規模全体としては、下記のように今後5年間で50%程度まで縮小するとしていますが、その大きな要因は太陽光発電システムのマーケット縮小(2020年度は2015年度比で1/3程度)によるものと分析されています。

  • 2016年度:3兆3,065億円
  • 2020年度:1兆7,124億円

また、2016年度から2017年度にかけてはバイオマス発電システムが大きな伸びを見せますが、こちらも2018年度以降は急速に縮小していくという推計です。

これは、バイオマス発電システムの場合は燃料として確保できる資源量にキャップがあるため、今後数年間の計画で経済的に確保できる資源がほぼ囲い込まれてしまう可能性があると推定されます。

大幅な拡大が見込まれるのは洋上を含めた風力発電システムのみで、中小水力発電も2017年度がピークになると推計しています。

本調査には熱利用が含まれていませんが、やはりFIT導入による再生可能エネルギー市場拡大のインパクトは大きく、現在の普及期を経て徐々に定常化していくという流れが最も確実な見通しなのではないかと考えられます。