ちばえこ日和

日本初の博士(公共学)という学位を持つ大学発ベンチャー「千葉エコ・エネルギー株式会社」の代表が、自然エネルギーのことから地域活性化まで様々な話題をお届けします。

固定価格買取制度:出力抑制(出力制御)拡大は「全量買取」の方針転換なのか(2)

前回から続きます。(1)は以下から。

固定価格買取制度:出力抑制(出力制御)拡大は「全量買取」の方針転換なのか(1) - ちばえこ日和

 

東日本大震災以降に「電気予報」が広く周知されるようになりましたが、同じように電力各社は過去の電力需要や天気予報などをベースとして需給予測を行い、その結果として上記のような状況が生じると想定される場合には各発電事業者に出力抑制(出力制御)を要請することになります。

電力各社へのヒアリングから、遠隔監視装置の義務づけ後は発電事業者が電力会社の給電司令室にコントロールを委ね、必要に応じて細かい出力抑制を行っていくという運用になるようです。一方で、仮に現時点で出力抑制が必要な事態になった場合には、前日までに電力会社が発電事業者に対して電話で出力抑制の実施(発電所の稼働停止)を連絡・要請するとのことです

固定価格買取制度を利用して太陽光発電風力発電による全量売電を行う事業者は、制度導入当初から年間30日以内の無補償の出力抑制を受け入れることか電力会社との接続契約の前提となっています(出力500kW以上の場合)が、実際に事業収支計画の中で毎年それだけの出力抑制を見込んでいる事業者は少ないというのが実感です。

出力抑制がどれだけ実施されるのか?という点では、過去にも取り上げたように経済産業省の系統ワーキンググループ第3回にて報告された、各電力会社の試算値(下図)が一つの目安です。

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(出所)経済産業省 新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ 第3回配付資料

2013年度を基準に見ると、接続可能量として示された水準まで再生可能エネルギー発電設備が連系された場合でも、出力抑制が年間30日を超える地域はありません。また、既に設備認定や接続申込みを終えている案件も、昨今は逆潮流対策や上位系統の増強工事等に数年を要するものが増えており、ただちに全量が導入されるものではありませんので、この水準まで出力抑制日数が達するには猶予があるものと考えられます。

今回の省令改正で出力抑制の対象と範囲が大幅に拡大されたことで、発電事業者が「売電したくても売電できない」状況が増えてくると見込まれるわけですから、全量買取を前提とする固定価格買取制度が方針転換したと言うこともできます。これについては、本来制度導入前に検討されるべきだった系統連系の問題が今になって顕在化しているという状況であり、当初からこのような対策措置は織り込まれているべきものでした。

実態としては、回答保留措置を受けた系統連系問題を短期的に解消しようとしたために対策メニューが発電事業者側に偏っており、送電網の増強・ベース電源の出力抑制・地域間連系線の活用・各種需要対策など、電力会社や需要側の措置も同時に盛り込まれていないことが問題です。送電網の広域運用もこれからスタートする段階ですし、2018~2020年に向けた発送電分離もどのような形になるのか定まっていません。

今後、太陽光発電を含めて再生可能エネルギー発電設備の導入が段階的に進む中で、電力の供給側・需要側・系統管理の各々で対策を講じていくことにより、出力抑制日数の減少と送電網への新規接続増加につなげていくことができると考えられます。

昨年4月に第四次エネルギー基本計画が策定されましたが、具体的な長期のエネルギーバランスに関する議論はこれから始まります。再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度はエネルギー政策の重要な部分を占めていますが、熱や輸送用燃料といった他のエネルギー部門を含めた包括的な議論もまだ進んでいません。

再生可能エネルギー発電設備における系統連系問題は、これまであまり目が向けられてこなかったわが国エネルギーシステムの大きな課題を浮かび上がらせました。これをより効率的な需給調整や系統運用を検討する契機とすることで、再生可能エネルギーの更なる普及が達成されていくと考えます。