再エネ業界ニュース:関東地方で第1種農地の転用によるメガソーラー - 農山漁村再生可能エネルギー法を用いた初の事例
これまで何度か「農山漁村再生可能エネルギー法」について取り上げていましたが、農林水産省が進める同法の活用した「農山漁村活性化事業」の新たな事例として、関東地方で初となる第1種農地の転用によるメガソーラー建設が進むことになったようです。
同法では、地元農林漁業者を含めた地域協議会を設立し、一定の条件を満たした場合に第1種農地のうち荒廃農地など営農の再開が困難な場所において、再生可能エネルギー発電所の整備区域として指定することで農地転用が可能となります。
今回の茨城県取手市における計画では、地域協議会に対して収益の一部を納付することを前提とし、協議会がその収益を活用した農林漁業の活性化を図ることとしています。
6月には発電所が完工するということで、同法を活用した先駆的な事例として今後の経過を見ていきたいと思います。
太陽光発電事業:なぜ太陽光発電所は倒壊したのか? - 電力安全小委員会の検証から
1月25日に、経済産業省の電力安全小委員会下にある「新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ」で、太陽光発電設備の安全確保のための取組強化に関する議論が行われました。
ここで、昨年の台風15号による九州地方での太陽光発電設備の被害調査結果が報告されています。
被害状況の集計や個別事例の情報が出ているので、一つ一つ見ていきます。
まず、設備規模別の損壊状況が下記です。
(出所)新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ資料9
発電設備の被害のうち約7割で構造面の問題が生じ、全体の4割でパネルの脱落や飛散が起きています。特に、500kW~2,000kWクラスで被害が顕著としていますが、このクラスの発電所は設置段階で工事計画の届出や使用前安全管理検査が不要となっています。
そして、実際の被害状況の報告がまとめられたものが下記です。
(出所)新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ資料9
ここでは2つの事例が挙げられていますが、どちらも架台を支える杭が抜けて架台が倒壊、パネルの損壊や飛散が発生しています。
いずれも、地盤調査の未実施・施工方法の逸脱・そもそもの強度計算不足により、太陽光発電設備の技術基準に適合しない耐風速強度となっていたと報告されています。
そして、各事業者への調査の結果、被害のあった設備のうち約2割にあたる16件で設計基準風速の不足や強度計算の未実施があったとしています。(更に12件は確認中)
(出所)新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループ資料9
今回の調査報告についてのまとめとして、「2,000kW未満の発電設備において、構造強度に関連する重大な損壊事案が発生している」とし、現状では
- 設計基準風速を把握していない等、必ずしも適切に技術基準を理解していない
- 安全尤度がほとんどない
- 不適切な施工方法により施工強度を達成していない
といった事例が散見されるとしています。
今後、他の発電所に対する実態調査の結果も踏まえて、安全規制の見直しを図る方向で検討が進むようです。
固定価格買取制度:太陽光発電の設備認定量が-200万kWと大幅減少 平成27年9月末の設備認定量公開
日経新聞などが、来年度の非住宅用太陽光発電の調達価格を「20円台前半」と報じている中、徐々に落ち着きを見せている太陽光発電マーケットですが、最新の設備認定データが公表されました。
太陽光発電の導入量が順調に増え、設備認定量では木質バイオマス発電が伸びを見せる中で、非住宅用太陽光発電の設備認定量が-200万kWの大幅減となりました。
7月は-52万kW、8月は-42万kWと数を減らしてきていましたが、ここに来て一桁多い減少幅になったのは、失効期限付き案件の認定失効と聴聞による取消が重なったものと見られます。
また、九州などで上位系統対策工事を含む接続検討の再検討結果が戻ってきているほか、関東でも栃木の入札に関する情報が伝わり、事業化を断念する事業者が増加している可能性もあります。
昨年来のFIT見直し議論の中で、経済産業省/資源エネルギー庁はFIT法の改正と並行して未稼働案件の報告徴収・聴聞を強化し、その解消を図っていくとしていることから、今後も同様の減少幅が続く可能性があります。
電力小売自由化:東京ガスの電気料金プランの相談会に行ってきました
太陽光発電事業:パネルメーカー破綻への対応 - 発電事業の長期安定稼働のために
13日に、資源エネルギー庁から平成27年9月末時点の設備認定状況が公表され、事業用太陽光発電の導入量が1,929万kW/34.6万件に達していました。おそらく、昨年末時点で2,000万kWを超えたと見込まれます。
その中で、太陽光パネルを供給するメーカー数も出荷量も増え続けて来ましたが、試しに「JP-AC太陽光パネル型式登録リスト」を見ると、何とリストが103ページにも達していました。
これだけ多くのメーカー/製品が生産・出荷されている中で、徐々に問題になりつつあるのがメーカーの破綻や事業撤退への備えです。
各メーカーが10年~25年以上の長期出力保証を打ち出していますが、果たしてそれだけ長い期間に亘って太陽光パネル事業を継続しているのか、更に海外メーカーの場合は日本に支社を残しているかどうかによって、保証の実効性が変わってきます。
運転開始から10年・20年と経過していれば、モジュールをその時点の最新型にまとめて交換するということも考えられますが、2~3年しか経っていない段階での不具合発生に加え、メーカー保証も受けられないとなった場合の対策は、事業上の大きなリスクとなります。
今後、太陽光発電マーケットが落ち着いてくるにつれて、メーカーの淘汰が進んでくることは確実とみられる中で、ユーザー側では可能な限りのリスクヘッジと事前の対策が必要です。
太陽光パネルメーカーを選ぶ時点からの企業与信を見ることもそうですし、EPCによっては自社が販売した製品に対する独自の保証を付けている場合もあります。
太陽光発電の長期安定稼働に向けた固定価格買取制度の運用見直しが進む中で、太陽光パネルをどのように選んでいくかということ、そしてプレーヤーが絞られてくる中でのリスク対応というものは、非常に重視すべき点と思います。
電力自由化:「小売全面自由化に向けた電気事業を取り巻く状況の検証結果」を公表 経済産業省
いよいよ4月の電力小売全面自由化に向けて、各社の広告合戦が繰り広げられるようになってきました。
そんな中、経済産業省が「小売全面自由化に向けた電気事業を取り巻く状況の検証結果」を、御用納めの日にひっそりと公表しています。
今回の検証は
- 電力需給の状況
- 電気料金の水準
- エネルギー基本計画に基づく施策の実施状況
など、電気事業を取り巻く状況を対象としています。
検証結果としてあげられているのは
- 小売全面自由化の主体となる一般家庭等への周知が不十分
- 全面自由化に必要な情報システムの開発・整備はギリギリの状態
- 原子力発電所稼働停止による火力発電の果たす役割の重要性
- 原子力発電所の再稼働などによる電気料金水準の低下への期待
- 昨年7月に策定したエネルギーミックス実現に向けた各種施策の実施
などとなっています。
今回の小売全面自由化により、わが国の電力自由化は第二段階へと進みますが、まずは制度の周知やシステム整備という初歩の段階から、課題を抱えてしまっているようです。
小売全面自由化の一般消費者に対する理解促進や、実は綱渡りとなっている自由化のための情報システム整備が課題としてあげられているほか、端々に原子力発電所の再稼働・事業環境整備への言及が見られます。
固定価格買取制度の見直しも含め、「状況の変化に応じ、必要な措置を講じていくべき」とした検証結果から、果たしてどのような政策見直しが行われるのでしょうか。
なお、小売全面自由化のための情報システムについては、昨年10月に東京電力が2016年4月時点でのサービス提供開始が困難となる可能性を示唆した報告を、政府に提出しています。
ソーラーシェアリング:ソーラーシェアリングに関する農林水産省の通知が改正 高さの明示や工事期間などの指導
ソーラーシェアリングを含む営農型発電の実施に関する、農林水産省の通知改正が行われました。
主な改正点は以下のようになっています。
- 農用地区域内農地、甲種農地、第1種農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障がないこと
- 支柱の高さについては最低地上高2m以上が確保されていること
- 農用地区域内農地においては、農業振興地域整備計画の達成に支障を及ぼすおそれがないようにすること
- 系統連系をする発電設備については、連系に係る契約を締結する見込みがあること
- 営農への影響に関するデータについて、先行して営農型発電設備の設置に取り組んでいる者の事例を根拠として認める
- 生産された農作物について、収穫したものは収量及び品質を報告し、生育段階のものは同じ生育段階にある農作物と比較した生育状況を報告すること
- 発電設備の設置については農閑期に行うことが望ましい
- 当該設備の設置を契機として農業収入が減少するような作物転換等をすることがないようにすることが望ましい
通知を見ると細かい表現の修正もありますが、大きくまとめると
- 農振区域などを含めて、発電事業により農業の効率的な実施に支障が無いようにする。
- 支柱の高さは2m以上を確保し、また工事については農閑期に行う。
- 作物の生育に対するデータとして認める範囲を広げる一方で、収穫・生育の報告についてより詳細に規定
以上が変更点と見られます。
今年は初めてソーラーシェアリングの一時転用許可更新が行われる事例も出てきますが、上記通知が更新時にも適用されるのかどうかについて留意する必要がありそうです。
雑記:自然エネルギーと食料とエネルギー安全保障 -2016年を考える-
自然エネルギーの導入を進める理由については色々な議論があるところですが、わが国においては1970年代に石油代替エネルギーとしての太陽光発電や地熱発電の技術開発から始まり、1990年代以降の地球温暖化対策、2000年代以降は若干ながらエネルギー自給率の向上など様々な理由付けがされてきました。
そして2010年代は、原子力発電の代替としての自然エネルギーが初頭に注目されるようになり、現在はここまでの様々な要素に加えて、地域活性化といった切り口からも自然エネルギーが必要とされています。
自然エネルギーはエネルギー種の偏在(日照が少ない地域、水資源が乏しい地域、火山のない地域など)こそあるものの、ある程度広い範囲で見れば我々の生活水準を維持するためのエネルギー供給は、エネルギー量ベースで言うと徐々に可能となりつつあります。
究極的には、自然エネルギーによって電気・熱・燃料を賄うことが可能になれば、国家あるいはコミュニティとしてのエネルギー安全保障が確立されるでしょう。(プラントを維持するための技術と素材の入手はまた別途必要ですが)
更にその先、自然エネルギーによって安定的な農業・食料生産が可能となれば、それはより強固なものとなります。
一般的に、自然エネルギー源は農村地帯ほど豊富に賦存していますから、両者の生産の両立について考えていくことも必要です。
各種バイオマスエネルギーのほか、わが国で言えば営農型発電(ソーラーシェアリングなど)も農業と食料生産の両立を目指す一形態に思えます。
現在、国内で急速に自然エネルギー発電が増加していますが、今年は電力の小売全面自由化も控えており、今後は供給側・需要側の双方でエネルギー選択の自由が拡大していくことになるでしょう。
少しずつでもエネルギーの自給が進む中で、我々に必要なもう一方の資源である食料を確保していくこと、これがこの1年の一つのテーマになるのではないかと考えています。
再エネ業界ニュース:栃木県内で東京電力が入札による系統募集プロセスを開始 増強工事完了は2020年以降か
昨年の夏から、高圧連系に関する系統接続の手続きがストップしていた栃木県内で、東京電力が電力募集プロセスを本格的に開始すると発表しました。
東京電力 送電接続を入札募集 再生エネ事業者 容量不足解消へ /栃木 (毎日.jp)
12月25日付で募集プロセスに係る要領を発表し、年明けから募集を開始して10月頃に全体のプロセスが完了する見通しです。
栃木県内の大部分が対象地域となっており、総工費は36.2億円でうち1.4億円が今回の募集プロセス対象額となっています。(差額は一般負担)
なお、本プロセス完了後に東京電力が上位系統対策工事に着手しますが、工事完了は平成33年頃と現在から5年はかかる見込みです。