「事業用発電パネル税」を考えるシンポジウム in 美作市
2019年5月に岡山県美作市で条例案が発表された「事業用発電パネル税」を考えるシンポジウムを、一般社団法人太陽光発電事業者連盟(ASPEn)主催で11月27日に美作市内で開催します。
「事業用発電パネル税」問題
この「事業用発電パネル税」は、美作市内の太陽光発電設備に対して、太陽光パネルの面積に応じて50円/㎡を課税するという内容です。
太陽光発電設備には、固定資産税や法人事業税が既に課税されている中で、法定外目的税としての二重課税を行うことが問題視され、各所から反対意見が上がりました。
しかし、美作市議会では6月議会と9月議会で継続審議となったものの、12月議会での採決が予想されるとの観測が浮上したことで、今回シンポジウムを緊急開催することになりました。
これまで、課税対象事業者である美作市内の太陽光発電事業者に対しては、ごく一部の事業者を除いて条例案の説明や意見聴取も行われていないことから、発電事業者側からアクションを起こすことにしたものです。
1人でも多くの発電事業者の方に参加いただき、今回のパネル税問題について知っていただくとともに、市への明確な反対意見を表明する場にしたいと思いますので、皆さまのご参加をお待ちしております。
過去の記事はこちらから
美作市の事業用発電パネル税の審議佳境へ - 12月議会が山場か
今年の5月に、岡山県美作市で「事業用発電パネル税」(通称:パネル税)の条例案がまとめられました。その内容は、市内に設置されている太陽光パネル1㎡あたり年間50円を課税するというものです。
標準的な60セルの太陽光パネルの大きさは1.65㎡程度なので、1枚あたり82.5円の課税になります。仮に低圧過積載で70kWp程度の既稼働の発電所でシミュレーションすると、
- 発電出力(DC):70kWp
- モジュール出力:250W/枚
- モジュール枚数:280枚
- 年間課税額 :23,100円
以上のように、23,100円の課税となります。
この課税により、美作市は年間9,400万円の税収を見込んでいます。
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6月議会と9月議会では継続審議に
5月に美作市の課税方針が明らかになると、国の方でもその内容が問題視されるようになり、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長である秋本真利議員が、下記のような意見を表明しました。
ここでは、美作市の事業用発電パネル税の問題点が明確に指摘されています。
- 法人事業税や固定資産税と課税標準が同じであり、二重課税である
- FIT制度が再エネ普及のために対象事業の費用等を勘案して適性利潤を決めており、追加的負担は制度の趣旨に反する
また、太陽光発電事業者連盟(ASPEn)としても事業用発電パネル税に対する反対意見書・提案書を取りまとめ、美作市長及び市議会議長宛に送付しました。
太陽光発電協会(JPEA)も反対意見を表明しています。
その後、6月議会では決議が取られる継続審議となり、9月議会でも同様に継続審議となりました。なお、9月議会の際はASPEnから全ての美作市議会議員に対して、新たに反対意見書・提案書を送付しています。
この間に、自民党の再エネ議連でも何度か議題として取り上げられました。
世界の再エネ推進の潮流に逆行する美作市の思惑は?
課税の趣旨について、上記の記事では「自然環境の保全や防災対策などに充てる方針」とされており、「新たな財源の確保と、発電所で大規模災害が発生すれば市の財政負担が懸念されることから課税が必要と判断」としています。
しかし、市内の太陽光発電所によって具体的にどのようなリスクが想定され、そのためにどの程度の予算措置を見込んでいるかなどの情報は示されておらず、自然環境の保全や防災対策のための税を、太陽光発電所だけから追加的に徴収する理由も明らかにはされていません。
これまで、美作市による課税対象の発電事業者向けの説明会も行われておらず、課税を推進している市長が表立って意見を表明する機会も見られないことから、彼らが何を目的としているのか不明確な点も多くあります。
9月議会でも継続審議となりましたが、この後に控える12月議会で市側が採決のための手を打ってくる可能性があり、その前の11月にも美作市で発電事業者による会合を開くべく準備を進めているところです。
全国への波及を阻止するために
今回の事業用発電パネル税が美作市で施行されれば、他の自治体が追随してまず岡山県内で広まり、その後に全国へと同様の課税が波及していくことが懸念されます。そして太陽光発電のみならず、「事業用発電ブレード税」や「バイオマス燃料税」などが出てくる可能性も十分にあり得ます。
再生可能エネルギーの主力電源化を目指す中で、現役世代の負担によって将来世代へ豊かなエネルギー社会を残すという視点を見失うことなく、その普及拡大の足かせとなるような制度が導入されることのないように、引き続きアクションを続けていきます。
発電側基本料金の議論が進む - 自民党の再エネ議連を傍聴してきました
発電側基本料金?
- 託送料金が減額され
- 発電事業者は発電側基本料金分を卸価格に転嫁する
という流れになり、転嫁がスムーズに進むと供給側・需要側全体としての負担総額は払う主体が変わるだけで、大きくは変化しないと見込まれます。
何が議論の主題なのか?
制度設計は見直されるか?
2024年までに再生可能エネルギー発電は更に現在の1.5倍以上に - 日本はどう振る舞うべきか
国際エネルギー機関(IEA)が、10月21日に"Renewables 2019"というレポートを公表しました。IEAは毎年"World Energy Outlook"など世界のエネルギー情勢に関するレポートを公表しています。私も、過去に学位論文を執筆する際には当時最新のレポートを参照していました。
そんなIEAが、「2024年までの今後5年間に世界で再生可能エネルギーが現在の50%以上増加する」という分析を公表したことで、早速日経などが取り上げています。
上記の記事にはIEAのレポートへのリンクがありませんので、こちらに掲載しておきます。
太陽光発電が再生可能エネルギーの筆頭に
IEAからは複数のシナリオが提示されており、再生可能エネルギー発電が現状から50%増加するのは"base case"です。その重要なポイントを挙げていくと、
- 2024年までに太陽光発電を中心に再生可能エネルギー発電は50%増加
- 増加量は全体で1,200GWで、これはアメリカの総電源設置容量に相当
- この増加量のうち太陽光発電が60%を占める
- 分散型太陽光発電の導入量は600GWを超えることに
- 世界の電源構成における再生可能エネルギー比率は30%に達する
- しかし、2024年時点でも最も電源構成比が高いのは石炭火力
このように、世界全体でこれまで以上に再生可能エネルギー電源の導入が進むことになり、その中でも太陽光発電が主要な電源になると予想されています。
また、再生可能エネルギー電源の導入拡大を加速するにあたっての課題として、下記の3点も挙げられています。
- 政策と規制の不確実性
- 高い投資リスク
- 太陽光発電と風力発電のシステムインテグレーション
この中の「政策と規制の不確実性」は、まさに日本政府と経済産業省・資源エネルギー庁が発電事業者・投資家に振りまいている課題です。
日本はどこへ向かうのか
今後5年間で、再生可能エネルギー電源が世界的に1.5倍の成長を見せるという中で、では日本はどこへ向かうべきでしょうか?
世界の潮流に合わせて、現在は世界トップ3にも入る太陽光発電導入量を更に伸ばしつつ、再生可能エネルギー電源の容量を2018年比1.5倍にして、大規模水力を含めて発電電力量の25%を目指すというのが、あるべき基本路線でしょう。
しかしながら、今の政策は「国民負担の軽減」というお題目を唱えるばかりで、更なる普及拡大のための一手を打つというよりも、市場における経済性を確保してその中で勝手に増えればいいという状況です。
目の前の国内事情にばかり目を向けるのではなく、世界の再生可能エネルギー導入をリードしていくという姿勢を持って、中長期の野心的な計画とアクションが求められます。
なお、解説記事としては英語ですがこちらの方がもっと詳しいので、掲載しておきます。
日経BPメガソーラービジネスで千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機が特集
日経BPのメガソーラービジネスで、千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機を特集していただきました!
たくさんの写真を交えた、5ページに亘る記事になっています。
「太陽光で成り立つ次世代農業」
大木戸では、プロジェクト開始当初から「農業を化石燃料から解放する」というミッションを掲げて、農地でソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)から生み出されるエネルギーを活用した農業の実現を目指してきました。
営農型太陽光発電による「エネルギー兼業農家」という在り方をベースに、太陽光発電で得られるエネルギー収入と環境価値を農業に活かすことで、かつては農業者が地域の自然資源管理を通じてエネルギー生産者だった頃と同様に、食料とエネルギーという2つの資源生産者としての農業者の在り方を復活させていこうと考えています。
今秋に千葉を襲った、台風15号及び19号でも設備や農地に大きな被害が発生することはなく、特に台風15号の猛烈な風でも設備が健全性を保ったことは、自然災害に対するソーラーシェアリング設備の強靱さを立証できたものと思います。
これから再生可能エネルギー電気の脱FITが進み、環境価値をフルに活用できる太陽光発電のモデルとして、更なるソーラーシェアリングの普及拡大を目指していきます。
千葉大学×京葉銀行の「ecoプロジェクト」で営農型太陽光発電の見学会を開催
8月にお知らせした、千葉大生の発案による「営農型太陽光発電」の見学会が9月18日に開催され、その様子が毎日新聞Webに掲載されました。当日は、千葉大生8名を含む22名の参加がありました。
ソーラーシェアリングへの関心が広がる
ソーラーシェアリングが抱える課題の1つは、社会的な認知度の低さです。現地を見て取り組みを知っていただいた方には「とてもユニーク!」といった評価をいただくのですが、何より実際に目の当たりにする機会そのものが少ないです。
今回は、千葉大生の企画によって見学会がスタートし、京葉銀行の協力も得て県内企業を中心とした視察団が集まりました。
千葉県は国内で最もソーラーシェアリングの事例が多い場所ですが、それでも一般への認知度はまだまだ低いと言わざるを得ず、このような機会を通じて広く取り組み自体を知っていただこうと思います。
告知の記事はこちらから
国連気候行動サミットでのGreta Thunbergの演説と大人達の反応
9月23日にニューヨークの国連本部で開催された、国連気候行動サミット(UN Climate Action Summit 2019)でのグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)のスピーチが、様々なメディアで取り上げられています。
何の結果も出せない大人達に、非常に厳しい言葉を投げかけた彼女のスピーチは、SNSでもその大人達の手で拡散されています。
一方で、同じ気候行動サミットの結果を報じる記事では、各国が「自国が決定する貢献」(NDC)を引き上げるようなアクションを取れていないと指摘しています。
彼女のスピーチを賞賛するのではなく、そう言わせたことへの内省を
私の周囲では、大人達による彼女のスピーチへの賞賛の声を非常に多く見かけます。
しかし、彼女のスピーチは大人達を厳しく糾弾したものですから、本来は若者が国連という場でこう言わざるを得ない状況を作ったことへの内省と、今日から自分がどのような行動をとるのかに言及するのが、大人としての姿勢であるはずです。
政府や企業を単に糾弾するのではなく、どうすれば彼らを気候行動に向かわせることができるのか、私たちはいつまでにどんな結果を出すのか、具体的な行動を考え実行していきましょう。
サウジアラビアの石油施設攻撃に見る、日本のエネルギー安全保障の危うさ
サウジアラビアの石油施設が攻撃を受けた事件から1週間が経過し、その実態が徐々に明らかになってきました。無人攻撃機(ドローン)だけでなく巡航ミサイルも含まれていたなど、その攻撃の詳細が判明してきましたが、アメリカからの兵器購入による大規模な防空体制を保有するサウジアラビアが、このような攻撃を受けたという事実は衝撃的です。
既存の防空システムで防げない攻撃
弾道ミサイルを前提にした防空システムは、日本でもパトリオットミサイル(PAC 3)や、イージス艦の装備するイージス弾道ミサイル防衛システム、そして昨今話題のイージス・アショアなどがあります。これらは、宇宙空間を含む高高度から飛来するミサイル迎撃を前提にしています。
一方で、今回使用されたと思われるドローンや巡航ミサイルは、低空を侵入してくるためレーダーにも捉えられにくく迎撃の難易度が高くなります。
無人攻撃機となるドローンは安価になりつつあり、数を揃えての飽和攻撃となればその防衛はさらに難しくなるでしょう。
この辺りの話は、以下の記事によくまとめられています。
サウジアラビアの生産施設損傷の衝撃
今回の攻撃でサウジアラビアの石油生産量の半分が一時的に失われましたが、日本の原油輸入は40%近くをサウジアラビアに依存しているため、国内の輸入原油量の20%相当を喪失したことになります。
更に、サウジアラビア・アメリカとイランの対立によって中東情勢が更に悪化すれば、それ以外の国々からの原油輸入も滞る可能性があります。
この事件について国内の報道や関心は低調ですが、アメリカはサウジアラビアへの防空部隊派遣を決定しており、対立が深刻化すれば武力衝突も懸念される中で、私たちの生活の生命線を握る石油確保へ重大な影響を与える事態に発展することも考えられます。
現時点では「真犯人」が明確には判明しておらず、ドローンや巡航ミサイルによる攻撃主体の隠蔽が容易であることも、この事態で判明しました。弾道ミサイルであれば、我が国周辺のようにどこから発射されたかを数分~数十分で解析できますが、そうはいかない手段が構築されたことで、攻撃側の心理的ハードルも下がることになりかねません。
国際政治における日本の立ち振る舞いや、中東情勢の不安定化を受けたエネルギー安全保障の再検討など、私たち国民が改めて強い感心を持つべき時期が訪れました。
停電7日目の復旧 - 今回の災害で浮き彫りになった社会問題
昨日15日に、「ソーラーシェアリングの郷」である匝瑳市飯塚地区へ向かい、停電が続く現地の状況などを確認してきました。
集落内では15日早朝にも一部の復電が確認されていましたが、15日の14時時点ではまだ停電エリアが広範囲に広がっている状況です。
ソーラーシェアリングを活用した充電ステーション
停電が3日目となった11日から、飯塚地区にあるソーラーシェアリング「匝瑳市民発電所」にて、太陽光発電設備から給電される電気を使った充電ステーションが開設されていました。
結果として同地区の停電は7日間に及び、開設期間中は多くの方がスマートフォンの充電などに訪れていたということです。
昨日段階で地区内の停電解消が確認され、充電ステーションも役目を終えました。
なお、東京電力の停電情報によると、16日朝の段階で匝瑳市の停電は全て解消されたようです。
停電長期化を経て改めて考えること
今回の台風15号では、東京電力パワーグリッドによる復旧の見通しが二転三転し、結果として県内の全面復旧は9月27日頃という見通しが公表されています。
停電の原因として、暴風による鉄塔や電柱の損壊はもちろんのこと、特に多く見られるのは倒木による配電線の損傷です。
上の写真は、千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機付近の倒木で、写真左側に1号機が映り込んでいます。この周囲500mで同様の倒木が4ヵ所で発生しており、集落はほぼ陸の孤島状態となり、台風から7日目となる15日段階でも倒木はほぼ手つかずです。
各地を走り回ってみると、この倒木被害さえなければこれほどの大停電にはならなかったでしょうし、復旧にも20日近くを要する事態にもならなかったでしょう。
倒木多発の背景は、空き家問題と同様に空き地・雑木林・山林での雑木管理が全く行き届いていないこと、そして千葉県特有の事情としての杉の溝腐病が蔓延していることなどが考えられます。
一方で、配電線に倒木が引っかかった際の撤去に関する所轄の問題(電力会社でなければ基本的に作業できない)など、制度上の課題も浮き彫りになりました。
いずれも今回の災害を教訓に制度を見直していく必要があり、停電からの復旧が落ち着いたら問題提起をしていきたいと思います。