ちばえこ日和

日本初の博士(公共学)という学位を持つ大学発ベンチャー「千葉エコ・エネルギー株式会社」の代表が、自然エネルギーのことから地域活性化まで様々な話題をお届けします。

リクナビの内定辞退予測データ販売に見る、AI時代の個人情報と企業倫理の崩壊

リクルートが運営する就活情報サイト「リクナビ」で、過去の内定辞退者の行動データを元にして、現在の内定者の行動をAIで分析し、内定を辞退する確率を予測するデータを企業向けに販売していたと報じられました。

AIの普及が進めばあらゆる個人情報が、その行動の分析に使われることになるというのは以前から指摘されてきましたが、まさにそれが現実化してきたと言えます。

私も一昨年から大学生向けのキャリア教育を行ってきていますが、就活生に新たな注意喚起をしなければならない時代へと突入しました。

www.asahi.com

「リクナビ」が就活生の行動データを販売するという衝撃

15年ほど前、私が就職活動世代だった頃には、既にリクナビはインターネットで就職活動をする上での大手サービスの一角を占めていました。

今回、そのリクナビが就活生の行動データを分析して企業に販売したというのは、就活生自身にとって大きな衝撃です。なぜなら、大手の就活情報サービスである以上、それを利用することを避けるというのは非常に難しいからです。

かつてJR東日本がSuicaの利用者データを企業に販売して社会的な批判を浴びましたが、まだしもSuicaはPASMOなど別サービスで機能を代替できます。しかし、リクナビの場合は就活生が志望する企業がリクナビをエントリー窓口として使用していれば、就活生としてその利用を避けることは困難です。

個人情報は企業によってビジネスに活用され続けていく

既に就職活動の場では「AI面接」が広がっていますが、まだ現在のAI面接には事前に本人の意図しない個人情報がインプットはされていません。

しかし、こういった就活情報サービスによる行動データの提供が始まると、最終的にはリクナビなどが把握している就活生の個人情報・行動情報も全てが事前に企業のAIにインプットされ、面接に活用されるようにもなるでしょう。

今回は内定を出した後の辞退予測でしたが、そう遠くないうちに「就活生の活動状況」から事前に内定を出すべきか(辞退率が高いか)から、選好判断がされるようになると思います。

究極的には、個人情報が各社のAIに集まるようなデータ提供が行われることで、就活情報サービスに登録した段階か、それ以前の段階で既に就活の結果が出てしまうような時代になるはずです。

このリクナビによる個人情報活用のように、法令などで明示的に禁止されていなければ、続々とその情報をビジネスに用いる企業は増えてくるでしょうし、個人にはそれに対抗する手段が非常に限られてしまうのが実情です。

H.I.S.の再生可能エネルギー事業はどこへ向かうのか? - 輸入パーム油によるバイオマス発電の是非

旅行大手のH.I.S.が宮城県角田市で進める、輸入パーム油を用いたバイオマス発電事業に対して、今年2月に東北大学大学院の長谷川教授を代表とした研究者・NGO・NPO・市民団体らによる事業撤退の申し入れが行われたことは記憶にあるところですが、更に約15万筆の署名が集められH.I.S.へと提出されたと報じられています。

www.kahoku.co.jp

輸入バイオマス資源は再生可能エネルギーか

来年の運転開始を目指して建設が進む「H.I.S.角田バイオマスパーク」は、出力41,100kWのガスタービンコンバインドサイクル発電所で、バイオマス発電とは言いますが要は「燃料に輸入パーム油を使った小型火力発電所」です。

パーム油は大豆油・菜種油と並ぶ主要油脂製品であり、国内で消費される植物油の1/4程度を占めます。日本人の1人あたりの食品としてのパーム油消費量は年間5kgですが、今回のH.I.S.のプラントは年間70,000tを燃焼させるため、1,400万人の年間消費量に相当する量を燃料として燃やすことになります。

食品として利用される油脂を火力発電の燃料とすることの可否とともに、パーム油が採れるアブラヤシの農園拡大によって熱帯林が開発され、気候変動リスクを増大させていることなどが問題視されています。

www.foejapan.org

「国外の熱帯林を開発して生産され、船で遠路輸送されてくるパーム油を用いた発電所の電気は、再生可能エネルギーなのか?」が、改めて問われるべきでしょう。

署名は日本国内よりも世界各国から

148,588筆が寄せられたという事業撤退を求める署名には、日本だけでなく世界65カ国から署名が寄せられたとのこと。

日本における輸入バイオマス資源を用いた発電事業には、世界の厳しい目が向けられている証左とも言えます。

www.alterna.co.jp

河北新報の記事では、H.I.S.が「環境問題や地球平和を考えて動くのは最終的に共通」と述べたと報じていますが、「最終的に共通」と抽象的に答えるのではなく、上場企業グループとしてパーム油を巡る懸念に対しては丁寧に答えていくことが求められます。

農業経営体の減少に歯止めはかからず - 過去最少水準

日本の農業従事者数の減少は既に言及するまでもないですが、小規模な家族経営体の離農に歯止めはかからず、農業経営体数全体で過去10年間に3割減少して、120万経営体を割り込みました。

www.agrinews.co.jp

進む高齢化

我が国の農業は「団塊の世代」が支えている状況にあり、その年齢が上がるごとに農業従事者の平均年齢も上昇してきました。

主に農業へ従事している「基幹的農業従事者」の年齢構成では、70歳以上が全体の40%以上(59万人)を占めており、農業就業人口全体では65歳以上が70%(118万人)を占めます。

一方で、49歳以下の新規就農者は約2万人/年となっていることから、現在65歳以上の118万人が今後20年間でリタイアしていくと仮定すると、その間に加わる若手の新規就農者は40万人となり、差し引き-78万人です。

この数字を目の当たりにしたとき、私たちの食料は果たして20年後に安定した生産を確保できているのでしょうか。

統計を読む:日本の全就業者に占める「雇用者」の割合が過去最大に

ここ最近は、講演に際して様々な社会統計をベースにお話しすること(統計不正問題もありましたが)を意識しているのですが、1つ気になる統計データを見つけました。

総務省が実施している「労働力調査」の中にありました。

www.stat.go.jp

日本の「雇用者」の割合が過去最高になっている

この労働力調査は、就業者数や完全失業者数、完全失業率などの重要な景気指標となるデータですが、その中に就業状態をまとめたものがあります。これは、就業しているか失業しているか、就業形態(自営業・家族従業・雇用者)はどうなっているかをまとめているのですが、2019年1~3月期のデータから「雇用者」の割合を算出してみると

  • 就業者数 :6,648万人
  • 自営業主 :519万人(7.8%)
  • 家族従業者:136万人(2.0%)
  • 雇用者  :5,945万人(89.4%)
  • 失業者  :186万人(参考)

何と、就業している人の89.4%が「雇用者」となり、この雇用者/就業者比率は年度別平均で見ていくと過去最高になります。すなわち、今は「日本の歴史上で最も雇用労働者の割合が多い時代」なのです。

働いている人の10人に9人が誰かに雇われていることになり、翻って自ら事業を営んでいる人は10人に1人しかおらず、これは過去最少です。

正規・非正規の話

更に内訳も掘り下げられる統計ですが、メディアで話題になる正規・非正規の割合、パート・アルバイトの数字を見ると以下のようになります。

  • 非正規労働者比率:38.4%(過去最高水準)
  • パート労働者数:1,048万人
  • アルバイト労働者数:464万人
  • 派遣社員数:142万人
  • 契約社員数:303万人

ということで、「非正規雇用が増加している!」という結論も得られなくはないのですが、細かく見ていくと若年層の非正規雇用者数は減少しており、65才以上の非正規雇用が増えたことが原因の一端を担っています。

  • 25才~34才の非正規雇用者数:過去6年間で50万人減少
  • 65才以上の非正規雇用者数:過去6年間で200万人増加

このような数字が得られるため、雇用者全体での非正規雇用比率の増加だけ取り上げてしますと、「高齢者の定年後の雇用が急増している」という実態が浮かび上がってきます。

若年層の人口減少、高齢者の人口増加も要素として見込めると思いますので、その辺りはまた別の機会に分析してみようと思います。

ブロックチェーン技術を活用したソーラーシェアリングから社会福祉施設への電力供給スタート

みんな電力株式会社のブロックチェーン技術を活用した、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)で生産された電気を社会福祉施設に供給する日本初の取り組みをスタートしました!

www.nikkei.com

取り組みの概要

今回は、千葉エコが保有する千葉県匝瑳市のソーラーシェアリング設備の電気を、社会福祉法人福祉楽団/恋する豚研究所の運営する社会福祉施設に対して、ブロックチェーン技術を用いた需給の紐付けを行うものです。

供給される電気は「FIT電気」であり再エネの純粋な環境価値は付加できませんが、千葉県内のソーラーシェアリングで作られた電気を、同じく千葉県内の社会福祉施設で使うという地産地消の繋がりが生まれました。そして、社会福祉施設に対するこういった電力供給の取り組みは日本初です。

既に千葉エコとしてはTBSラジオの戸田送信所へ、ソーラーシェアリングからの電力供給を昨年12月より行っています。これも、みんな電力株式会社のブロックチェーン技術を活用した取り組みです。

これらの取り組みを積み重ねて、引き続きソーラーシェアリングと様々な企業・産業を繋ぐモデルを広げていきます。

岡山市で初となるソーラーシェアリングセミナーで講演 - 7月28日14時から

「晴れの国おかやま 太陽光発電のススメ」というWebサイトまで開設して太陽光発電の促進を図っている岡山県ですが、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の普及では何故か不毛地帯となっています。

そんな岡山で、初となるソーラーシェアリングセミナーでの講演を7月28日に行います。

www.facebook.com

なぜ不毛地帯になってしまっているのか?

農林水産省による営農型太陽光発電の導入状況の統計データを見ると東高西低の傾向があり、中四国では徳島が飛び抜けて多い以外は低い導入件数となっています。

導入に熱心な事業者の存在や、許可権を有する都道府県の姿勢などが導入件数に大きく影響しますが、耳にする範囲では自治体が営農型太陽光発電の許可に消極的とも聞こえてきます。

一方で、単純な認知度の低さということも否めないので、今回のセミナーではソーラーシェアリングの基礎知識や各地での取り組み、SDGsやRE100との関係などを中心に、関心を高める方向でお話ししたいと思います。

ASPEnにメール会員を創設しました - 「FIT終了」の誤報騒動を受けての対応

一般社団法人太陽光発電事業者連盟(ASPEn)として、新たに再生可能エネルギー発電事業等の情報配信を受けられる「メール会員」を創設しました。

これは先般の「FIT終了誤報騒動」を受けて、より迅速に正確な情報を発信していく必要を痛感したことによるものです。

「FIT終了」の誤報騒動

6月12日から13日にかけて、大手報道各社から「太陽光発電のFIT終了」というニュースが駆け巡り、あたかも「既稼働案件も含めて全ての太陽光発電のFITがなくなる」という理解が広まってしまい、13日の株式市場では関連銘柄が下落し、レノバが「一部報道について」とする緊急リリースを出すなど混乱が広がりました。

実態は、2020年度に予定されているFIT制度改正の検討が始まったことについて、報道各社が既稼働を含めた全てのFITが廃止されるかのような記事を配信したことが原因です。

翌週20日に開催された自民党再エネ議連の会合では、資源エネルギー庁から本件報道は誤りであり、報道機関に対して抗議した旨の発言もありました。

制度に関する正しい情報を発信するために

これまでも、FIT制度については報道機関によるミスリードが相次いで来ましたが、今回の誤報は株式市場にも影響を与えており、改めて大手メディアの影響力を感じると共に、迅速に正確な情報を伝える必要性も痛感しました。

ASPEnも太陽光発電事業者の団体として情報発信に努めてきましたが、今回の事件を受けてメール配信という形で情報を伝えていくスキームも取り入れることにした次第です。

下記のフォームから氏名と連絡先の入力で簡単に登録ができますので、是非ともこの機会にご登録ください。

docs.google.com

 

美作市の事業用発電パネル税に対する反対意見書・提案書をASPEnとして送付

国内の自然エネルギー業界に大きな衝撃を与えた、岡山県美作市の「事業用発電パネル税」課税条例について、一般社団法人太陽光発電事業者連盟(ASPEn)として反対意見書・提案書を美作市長並びに市議会議長宛に送付しました。

f:id:chibaecoenergy:20190624230010j:plain

送付した反対意見書・提案書

自然エネルギーへの新たな課税は将来世代にツケを残す 

今回の反対意見書には、事業用発電パネル税が太陽光発電事業を狙い撃ちしたものであり、世界的な自然エネルギー導入拡大の流れに逆行し、自然エネルギーへの投資を萎縮させるツケは将来世代が払うことになると指摘した上で、太陽光発電事業の適正化に向けた取り組みを提言として盛り込みました。

この課税条例案は美作市だけの話・太陽光発電事業だけの問題と思われがちですが、自然エネルギー発電に対する地方自治体独自の課税が実現すれば、同様の条例は全国の市町村に波及することになり、いずれ対象も拡大されてバイオマス燃料税や風力発電機税なども創設される恐れがあります。

既に、自然エネルギー発電には固定資産税・償却資産税・法人事業税などが課されている中で、減税措置による普及支援は幾度も行われてきましたが、課税措置による間接的な抑制策は初めての事例でしょう。

自然エネルギー発電の持つ便益を見つめ直し、どのように地域社会で活用していくかをまず考えるべきであり、ASPEnとしても太陽光発電事業に厳しい目が向けられている中で、その適正化に向けたアクションを行政と共に推進していきたいと考えています。

「全太陽光発電所適正化に向けた見学ツアー&セミナー@福山」を開催します

4月に宮城県で開催した「不適切発電所撲滅に向けた見学ツアー@仙台」をリニューアルし、ASPEnとして「全太陽光発電所適正化に向けた見学ツアー&セミナー」として開催いたします。今回は、広島県福山市にて6月29日(土)の開催です。

f:id:chibaecoenergy:20190623185322j:plain

低圧太陽光発電所の整理は始まるか

資源エネルギー庁が公表している事業計画認定情報では、事業用太陽光発電所の件数が56万件を超える中で、その95%は50kW未満の設備となっています。

低圧連系の太陽光発電所は、その他のFIT対象となっている事業用発電設備と比べて参入が容易であり、FIT開始後には雨後のタケノコのように各地に誕生していき、車を走らせれば日本全国どこへ行っても太陽光発電所が目に付くようになっています。

前回の宮城県ツアーの際にも、一つの集落の中にフェンスや法定標識の未設置の他にも、明らかに危なそうな設計の発電所がいくつも見受けられましたが、容易に参入できる一方で設計・施工・管理が不十分な発電所も多数誕生しました。

使用前自己確認などの手続きが必要な高圧連系の設備と比べて、数が多すぎて規制官庁による指導の手も回り切っていないのが実情で、そういった時には大きく網をかけるような規制が実施されるのが過去の経験から懸念されます。

現状を知り業界としての対策を

小規模とは言え、低圧連系の太陽光発電所も電力供給のインフラ設備である以上、「野良ソーラー」と言われるような無法状態がいつまでも放置されるとは思えません。

そういった発電所の存在が、結果として太陽光発電全体のイメージ悪化に繋がることから、まずは業界としての自浄を図ることが必要となってきます。

今回のツアーでは、不適切な発電事業の行われている現場を実際に見て、どうしたらその発電所を適正化出来るのかを考えていきたいと思います。

 

ツアーの詳細等は、下記のページをご覧ください。

aspen.or.jp

千葉大学大学院での今期の講義スタート - 「大学院におけるキャリア形成」

今日から千葉大学大学院で、今期(2019年度第2ターム)の担当講義「人文社会科学特論 - 大学院におけるキャリア形成」がスタートします。今年初開講の、新しいチャレンジとしての講義になります。

f:id:chibaecoenergy:20190617185505j:plain

懐かしの人文社会科学研究棟@西千葉キャンパス

大学院におけるキャリアパス

昭和から平成を越えて令和時代に入り、これまでの人生設計・キャリア観が全く通用しない時代に突入しましたが、大学院教育ではもっとガラパゴスな状況にあります。

そもそも大学院生のキャリア教育?というところからのスタートになりますが、文部科学省の平成27年度「学校基本調査」によると、社会科学系の大学院博士課程修了者で正規職についているのは40%以下、非正規職を含めて50%に届かずというのが実態です。

博士課程を修了しても半数以上が(おそらく)研究を活かした職に就けず、人文科学(文学や哲学など)に絞ると正規職は20%を切ります。

この現実を踏まえて、博士前期課程(修士課程)の段階から自身のキャリアパスを考え、大学などの研究職に限らず専門性を活かせるような道を見いだすというのが、今回の講義の目的になります。

大学院が「逃げ場」から逃げ出せるように

人文社会科学系の大学院は、就職活動がイマイチだった学部卒生の「逃げ場」に長年なってきたのは事実であり、周りを見渡せば研究職に就いた人物は10人に1人もいません。(このSNS・情報化時代に音信不通・所在不明の人も珍しくないです)

私自身が、博士課程修了から起業して今に至るキャリアの中で、結果として自身の大学院での専門性を活かす仕事が出来ていますが、これは本当に時流も含めた偶然の産物だと思います。

その背景を持つ中で、この経験を後に続く世代に伝え、新たなキャリアプランとして示すことが私の宿題でもあります。